籠の中の乙女(50点)、トガニ(70点)

◆籠の中の乙女
★★★★★☆☆☆☆☆(50点)
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娘よ、俺の世界で生きろ

金持ち一家のパパが娘二人と長男を郊外の屋敷で監禁状態で育てているというぶっ飛んだシチュエーションのドラマ、というかシュールコメディ、もしくは気の利かない寓話。
三兄妹は外界のことをまったく知らされず育てられており、当然テレビなどはない。屋敷の外は危険な世界ということになっており、実際彼らの見えない4人目の兄弟が屋敷の外で猫に惨殺されたことにされていたりと(4人目の兄弟はかつては本当にいたのかもしれない、何かでいなくなるか死んだかして、それが今回のシチュエーションの原因となっている可能性がある。が、ハッキリ言ってどうでもいい。)、もう無茶苦茶である。
しかし長男が思春期を迎えると、姉妹に何かあってはいけないということなのか、クリスティーナという女性が連れてこられ、兄とセックスをするようになる。クリスティーナは当然普通の人なので、外の世界からちょっとした刺激を持ち込んでしまう。

クリスティーナがもたらした少しの刺激から、兄妹のストレスは微妙に変化し、やがて長女の奇行につながる。

別に観る人を選ぶとは思わんが、唐突に終わるのでなんじゃそりゃとなってしまいそうな映画である。それでもこの映画はカンヌある視点受賞であり、アカデミー外国語賞にノミネートしている。多分それは、映画であることの作品的意義というか存在感というかね。
「かぞくのくに」がノミネートしない、もしくはしそうもないと思ってしまう理由は、そのあたりなんじゃないだろうかなんて。

◆トガニ
★★★★★★★☆☆☆(70点)
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小説で掘り起し、映画で追いつめた

韓国に「トガニ法」を作らせたノンフィクション(全てではない)映画、および小説。
霧の街ムジンにある聾学校で発生した、聴覚障害者に対する教員の日常的性暴行事件。有力者とそこに癒着した公安に挑んだ新任教師と人権団体の実話。起訴したまでは良かったが、そこには前官礼遇(ここでは、判事を辞めて弁護士になった前官のデビュー裁判は勝たせるっていうアホ過ぎる慣例を指す)という理不尽な壁が立ちふさがる。
実話版「ダウト」みたいな話ですね。

結局、暴行の決定的証拠を見つけたにもかかわらず、前述の慣例と癒着、腐った司法、それら悪行と惰性のるつぼによって、弱者の訴えは踏みにじられる。
官尊民卑の極みで、バカバカしいにも程がある話だ。
実際、これを観た韓国人が怒りに怒って、障害者への暴行事件の時効撤廃、厳罰化を定めた「トガニ法」が出来たのだ。
「それでも僕はやってない」に似た、ある種の哀しいカタルシスである。
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シュガーラッシュ(84点)、リンカーン(55点)、ヒッチコック(50点)、ルビー・スパークス(53点)

◆シュガーラッシュ
★★★★★★★★☆☆(84点)
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キャンディーキュートを侮るなかれ

ゲームの世界をテーマにしたディズニーのCGアニメーション映画。
新旧デジタルゲームのキャラクターたちが人知れず送っている人生を覗き見る話。
というか、トイストーリーのデジタル版と言ってしまうのが早かろう。

人気ゲームの悪役であるラルフは、自分もみんなに好かれたい、仲良くしたいと思うが、その能力と役柄上うまくいかない。
こうなったらヒーローの証であるゲームメダルを手に入れてみんなに認めてもらおうと(他ゲーム世界に)旅立つことにする。

最新FPSの世界にもぐりこんだラルフは、その破壊力を活かしてゲームメダルを手に入れる。しかしその世界のエイリアンに襲われて宇宙船が難破。可愛いちびキャラで人気のレースゲーム”シュガーラッシュ”の世界に迷い込んでしまう。
ラルフがそこで出会ったのは、時々姿にノイズが入る変な女の子。ゲーム内のバグだと皆に罵られながらも頑張る女の子を見て、協力を申し出るラルフ。ここに悪役とバグという最強コンビが結成された。
果たして女の子はレーサーになれるのか、ラルフはヒーローになれるのか。劇場で見届けよ!

スタッフのテーマ愛をこれでもかと感じるつくりで、根本にトイストーリーと同じスピリッツがあることが一目でわかる。実に素晴らしい作品。
かつてディズニーピクチャーズは”テーマ愛が感じられないスタジオ”の急先鋒だった。いくらピクサー勢に乗っ取られたとは言え、その後の頑張りには本当に目を見張る。もう何度も言っているが、ラセター様様である。
これが「メリダとおそろしの森」に負けてしまうのだから、今回のアカデミーは本当に茶番であった。茶番なのに権威があるから恐ろしいのだ…(だから盛り上がる)。

◆リンカーン
★★★★★☆☆☆☆☆(55点)
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アメリカのアメリカによるアメリカのための

ダニエルデイルイスの活躍によりアカデミーモノマネ部門枠でノミネートを果たしたスティーブンスピルバーグの最新作。
南北戦争を終わらせると奴隷制廃止案が立たず、工作しようにもうまくいかず~と言った苦境を泥臭く乗り越えるリンカーンの話。(念のため、リンカーンはヴァンパイアハンターではないので、ヴァンパイアは出てきません。)

スピルバーグらしく大げさかつ綺麗に、かつフェアに演出された歴史活劇。
戦火の馬よろしく、これで感動しろと言われると小生は擦れすぎていて閉口してしまうが、ベテラン俳優の演技もよく、脚本よく、さすがノミネート作品といったところである。
リンカーンのしたことは知っていてもリンカーンがどんな話し方するかは知らんのでダニエルデイルイズの演技が似ているかどうかはわからない。

これ、どこまでもアメリカの歴史話(美談及びモノマネ)だからね、過剰な期待は禁物。

◆ヒッチコック
★★★★★☆☆☆☆☆(50点)
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絶妙に似てないんですよ…

アカデミーモノマネ部門枠落選作品。
アンソニーホプキンスがテラごついメイクでヒッチコックに化けてはみたものの、実際は稲垣吾郎のデブメイクにしか見えなかったという話題作。
というわけで中途半端な主人公はほっといて、よく語られる夫人の頑張りにスポットが当たった映画である。夫人はヘレンミレンだ。
さらにジャネットリー役にスカーレット出しとけばよかんそんが添えられている。
ちょっとコテコテしすぎだよ。

◆ルビー・スパークス
★★★★★☆☆☆☆☆(53点)
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ルビーがスパークしてバーン!

イカれた草食男子をやらせたら右に出るものが2,3人しかいないポール・ダノの最新作。
人気作家のポールダノが夢に出てきた女の子のことをタイプライターで原稿にしたらその女の子が家に押し入ってきたっていう、日本のアニメオタクが夢想したエロ話の逆輸入みたいな映画。
名前は知らないけどこの女の子(ルビー)役の子が大変可愛らしい。
このルビーがルビーのようにスパークして消える喪失感が楽しい。
理想の女の子ってのは、本当に良い女の子とは違うのよねー。


ちょっと後半のレビューが雑過ぎましたかね。
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ジャッキー・コーガン(70点)

◆ジャッキーコーガン
★★★★★★★☆☆☆(70点)
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アメリカは国じゃねぇ。ビジネスだ。
NOW!ファッキンペイミー!!


レイリオッタの賭場が二人組の覆面強盗に襲われた。
こんな時ボスが仕事を依頼するのが始末屋のディロンだ。
しかしディロンは余命いくばくもない病人のため、代理に現れたのが“優しく殺す”ジャッキーコーガン。
と言っても当然ながら人間的に優しいわけもなく、その名の所以は“苦しめず、考えさせず殺す”ことにある。

かくしてジャッキーコーガンは(半ば彼自身のジャッジにおいて)被害者を含む関係者全員の抹殺に動く。
きれいさっぱり手早く仕事を済ませた彼は、ボスの代理人に報酬の値上げを要求する。
縁故世間体を大切にする古いタイプの殺し屋かと思いきや、ボスの顧客に噛みつくジャッキー。
果たして彼の考えるルールとは何なのか…


地味で渋いジャッキーコーガンにブラッドピットがベタ嵌りの映画である。
その他ノワール系のベテラン俳優の出来もすこぶる良い。娯楽性に欠けるため渋いノワール好きにしか好かれなそうだが、コーガン流がポエムのように歌われる叙情的な演出は個人的に大変気に入った。

擦れきった映像は一つの特徴だ。だがそれ以上に終始流れ続ける異様なSEが際立っている。
冒頭から最後まで耳に焼付くような“アメリカ産業の騒音”、“大統領選の演説”。
ひたすら不快感な雑音と聞き飽きたアメリカの建前。
そのストレスが解放されるラストのカタルシスも中々おしゃれだ。

劇中はタランティーノ風の長ったらしい会話が半分を占める。そこを意義ありと取れるかどうかが評価の分かれ目だろう。
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ザ・マスター(95点)、容疑者ホアキンフェニックス(40点)、かぞくのくに(65点)

◆ザ・マスター
★★★★★★★★★☆(95点)
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アイデンティティと魂の自由

第二次大戦の後遺症でPTSDを患っている帰還兵のフレディ。
病の影響で社会に溶け込むことができず、戦中の逃避行動であった密造酒づくりだけが彼の心のよりどころだ。
そんな放浪のフレディがパーティー会場に乱入することで出会ったのが、ザ・マスターこと新興宗教団体のグル(ホフマン)。
ホフマンはプロセシングという名の退行催眠を行うことで、魂が肉体を渡り生きている事、その精神と記憶は時代を超越して存在し続けることを説いており、戦後の感情不安定な世の中で一定の支持、または非難を受ける有名人である。

フレディはホフマンの人柄に惹かれて彼の旅に同行するようになる。
ホフマンはフレディを救済するために同行を許しているはずだが、教えを聞くこともせず自分の本心でしか生きられないフレディに対し、次第に羨望にも似た複雑な感情を抱くようになる。

それに加え、ホフマンの妻であり、彼を管理し、教団を裏でまとめる役割として登場するのがエイミーアダムスである。(名前が出なかった気がするのが意味ありげだ)
彼女はホフマンが支配できないフレディとその人格を嫌悪しており、幾度かのチャンスは与えるものの、最終的には彼を憎悪しているようにも見える。

彼女にはフレディとホフマンの間で起こっていることが理解できない。
ホフマンの生き方は現世におけるアイデンティティからの逃避であり、フレディの生き方はひたすらに惨めなアイデンティティを抱えながら、それでも生きる生物の本能である。
魂の自然を体現したようなフレディに、ホフマンは自分の道を失い始め、彼を求めることで心の安寧を得ようとしているかのようだ。

やがてフレディはホフマンのもとを離れる。
ホフマンは彼を愛してくれるが、ホフマンの思想は彼を救うものではないからだ。

ペニスを握ってマスターを管理する妻。アイデンティティの放棄から目を覚まされるマスター。始末に負えないアイデンティティと行く当てのない放浪を続ける中年男。
テーマに対するデフォルメを行わず、難解なまま解放される熱き魂の静かな旋律。

巨大化した教団の英国支部で再開した二人の、友情とも嫉妬とも形容しがたいやり取りに、監督の底知れぬ人間研究の片鱗を観る。

さすが、という言葉しか出てこないPTAの最新作。
全てのシーンに意味があり、その意味を具現化したかのような映像美を拝む。
その映像をバックアップするジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)の劇伴も「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」と同様に歪で印象的で、耳に残る。

上記の映像・劇伴に加え、超優秀な俳優陣がプロットが無いに等しい物語を作品に昇華する。
猫背で口唇裂で、常に無愛想でありながら激しい感情を持つフレディ。
性格を並べるだけでも難しいこの役を、完璧以上に演じきったホアキン・フェニックスが素晴らしい。言葉に形容できない怪演である。
彼が主演男優賞を取れなかったのは、この後にレビューする「容疑者ホアキン・フェニックス」でおふざけが過ぎたからとしか思えない。
ホフマンはいつも通りと言えばそれまでだが、頭が良くて内面に問題のある人間をやらせたら右に出るものが無い。
エイミーアダムスの演出する女世界は最早おとこが物申すところではなかろう。

あまりに膨大かつ複雑なテーマの数々。
この作品をうまくデフォルメして伝えることは難しい。
まったく万人向けではないが、気になったら是非映画館で鑑賞してほしい。


◆容疑者 ホアキン・フェニックス
★★★★☆☆☆☆☆☆(40点)
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どうでもいいが面白くない。

「ザ・マスター」で怪演したホアキン・フェニックスが業界とメディアを巻き込んでまで実行した大嘘引退ドキュメンタリー。

「グラディエーター」と「サイン」でそこそこのスターポジションについた彼が、もう映画には出演しないと言い始めて、その後どういうわけか「ラッパーになる」と宣言するわけのわからない話。
その後はほぼ全編通して、愚痴みたいな歌詞のラップを聞き続けることになる。
構成としては「大嘘つきます」ということをベースにするのではなく、「ホアキンフェニックスの一生にはこういうパラレル人生が有り得た」というスタンスで作られている。
が、別にそれが面白いかっちゅうと、痛い姿を見続けるだけなのでこれと言って何か感じるものがあるでもない。
一番しらけちゃうポイントは、"ラッパーになる動機がなさすぎる"ことだ。
だから大嘘つこうにもプロデューサー連中からは信用されていない。
もちょっと、そこはしっかりしとかないとねーとは思った。でもあんまりこの実験には興味がないのでどっちでもいい。

◆かぞくのくに
★★★★★★☆☆☆☆(65点)
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あなたが大嫌いなあの国で

在日朝鮮人の家族のもとに、北朝鮮からの帰宅困難者となっていた息子(アラタ)が帰ってくる。脳腫瘍の治療を行うための、極秘入国だ。
アラタは昔の友人と同窓会をしたり、妹と水入らずのデートをしたりして楽しむが、脳腫瘍の方は結構重くて、3か月という限られた帰国期間の中では治療が難しかった。
そうこうしているうちに、期間を大幅に早めての帰国命令が北朝鮮から届く。北朝鮮の生活に慣れているアラタは、突然の凶報にも動じないが、家族は怒り心頭。
しかしそれはお国の決める事、個人の想いなど関係なくなすべきことはなされ、残されるものは祖国の良心を信じるのみという結末に至る。
アラタの監視人としてついてきた兄ちゃんが映画の肝になっており「あなたが大嫌いなあの国で、自分も、アラタも、死ぬまで生きるんだ。」
のセリフには一瞬胸がグラついた。

今年のキネ旬1位の注目作ではあるが、はっきりいって各段面白いわけではない。
意義のある社会的テーマと、しっかりした脚本、実力派俳優の好演、という、邦画ではなかなか揃い難い要素を満たしているところが評価されたポイントだろう。
ただ、アカデミー外国語映画賞に選出するには内容もインパクトも足りないと思う。社会問題としても諸外国から見れば手緩いし、共感も得にくいものではなかったか。
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パラノーマル・アクティビティ4(12点)

◆パラノーマル・アクティビティ4
★☆☆☆☆☆☆☆☆☆(12点)
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ヨッ!待ってました!

ついに年に一度のペースになったシリーズ5作目。(当然、東京の奴も入れます。)
これまでの作品もドイヒーだドイヒーだと言われてきたわけだが、このナンバリング4はその中でも抜きんでてドイヒーな内容になっている。
※ちなみにキャンペーン時のマスコットはローラ。

まず、本作はナンバリング2の続きである。(ナンバリング3は悪魔信仰と根深い姉妹の過去の話で、いわゆる外伝という位置づけになる。)
ナンバリング2はこちらでレビューしたとおり。
http://casinoroyale.blog120.fc2.com/blog-entry-1289.html
実際ここに書かれている通り、連れ子が可愛かったという記憶しかない。
のだが、ナンバリング4の最初の説明で”ケイティーが親父の首をへし折って赤ちゃんを連れ去った”ことは思い出した。そういやそんなんあったわ。

で、ナンバリング2から4年後が今回の舞台。
ケイティーとロビー(連れ去られた赤ちゃん)が暮らす家があって、そのお向かいに引っ越してきた家族が主人公サイドである。
その家族の中に16歳の金髪ガールがいて、話の中心になる。この子は文句なく可愛い。これは製作者側がこの作品において唯一観客のことを考えてくれたポイントであると思う。実際、この子を見るというモチベーションなしに本作を観続けるなんて想像しただけでも屁が出る。

さて、今回ビデオを撮影する役をやるのは金髪ガールとそのボーイフレンドのベン。この二人はいつもWebカメラでチャットしているので、なんと今回の映像は部屋ごとに設置されたノートパソコンからということになっている。少々無茶な気がするが、スルーしてやろう。(後半は脚本のつじつま合わせがめんどくさくなったのか、登場人物が急にビデオを観なくなったりする。アーメン。)
ちなみに1つだけ暗視機能付きのカメラを大広間で使用しており、これは終盤に金髪ガールが透明悪魔に襲われて家から逃げ出す際にいつの間にやら持ち出すという荒業に使用される。

ところでパラノーマルアクティビティと言えば悪魔に憑依されたケイティーの必殺技も大きな見どころだろう。
ケイティーが繰り出す必殺技は以下の2つである。

1つ目は片手を前に差だし、波動で相手をふっ飛ばす
「マンプッシュ」(↓\→ P)
2つ目は相手の背後から投げ間合いまで近づいて首をへし折る
「首折り」(近距離で→\↓/←P)

必殺技が2つで足りるなんてガイルくらいのものだ。
ナンバリング2ではマンプッシュと首折りの両方を見ることが出来たが、今回は金髪ガールのボーイフレンドのベンが首折りを喰らうところしか見ることが出来ない。まぁそれだけでも十分笑えるのだが。

なんの話をしてたんだっけな。そうそう、この映画には一つだけ見逃してはいけないハイライトがある。
最後の最後に金髪ガールが暗視カメラを持ってケイティーの家にパパを助けに行くのだが、ここで運悪くケイティーと対峙してしまう。
金髪ガールは急いで逃げるんだけど、”黒いTシャツ”のケイティーがとんでもない形相で走ってくる。金髪ガールはドアを閉めるが、ケイティーはドアを突き破る。この時なんと!ケイティーが”白い半そでシャツ”に早着替えしているのだ!ヨッ!お見事!ホラーの鑑!
また、DVDには収録されていないが、劇場で鑑賞した人だけのサービスとして続編の映像が少しだけ流れる。これはメキシコの雑貨店の中の映像で、撮影している奴が急に店の婆さんから逃げ出すというもの。見たければyoutubeなりなんなりで見れるが、こんなそそられない意味不明かつ半端な予告を差し込むなんて作り手の正気を疑う。

と、まぁふざけるのはこのくらいにして、本作のドイヒーさは「なんら発見のない無駄な続編」であることや「脚本が強烈に雑」であること、さらに「シリーズ随一のぶつ切りエンド」あたりに集約される。
観たい奴だけ観ればいい。俺はメキシコも見るぞ。
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愛、アムール(99点)

ミヒャエル・ハネケの新境地に、しばらく言葉を失いました。

◆愛、アムール
★★★★★★★★★☆(99点)
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かくも尊き愛の記憶

パリのアパルトマンで老後を過ごす元音楽教師の夫婦。
娘は独立し、弟子は一流のピアニストとして世界を巡っている。十分に満たされて静かな生活を過ごしている二人に、人生最後の試練が訪れる。
頸動脈狭窄症により妻のアンヌが右半身麻痺に。老夫婦2人による、いわゆる老老介護生活。

弱音一つ漏らすことなく、妻の介護を献身的に行うジョルジュ。
ジョルジュに感謝しながらも、要介護者として憐れまれるのを嫌うアンヌ。
アンヌは実の娘にすら姿を見られるのをためらう。同情の目で自分を見る弟子には、嫌味にも練習曲を弾かせた。
彼女はジョルジュに古いアルバムを持ってこさせると、こう切り出す。
「素晴らしい人生だった。かくも長く、長い人生」
そして言うのである。
「早く終わりにしたいわ」

ジョルジュはアンヌを理解している。
高慢とは言わずとも、長く生きた女性として気品をもって生きたいと願い、屈辱と苛立ちの中で苦しむ妻を理解している。可能な限り彼女を彼女らしく生かしてあげようと努力し、その一方でより現実的な療法を行わずにいること、夫婦の問題として扉を閉じていることに葛藤している。

そうしているうちに2度目の発作が起き、アンヌは自由に会話することもできなくなる。
意識も朦朧とし、時には自分の状態がわからなり、うわごとを口にする。
それでもジョルジュは自分の手で介護を続ける。
様子を見に来る娘に「心配されるのも迷惑だ」と追い返し、昔の思い出話をアンヌに聞かせて笑顔にさせる。二人だけが共有している世界で、ジョルジュは悲しく先細っていく人生を考える。

「痛い。痛い。」
どこが痛いのかもわからないアンヌをなだめ、優しく手をさすりながら昔の思い出を語るジョルジュ。
遠い昔の幼い頃、キャンプのために母と離れて寝泊りをしなければならなかったとき、母は「悲しいことがあったら、星を描いた絵ハガキを送りなさい」と言った。そしてジョルジュは、星を描いたはがきを母に送ったのだった。
静かに話を終えた後、ジョルジュはアンヌの命をおしまいにする。


老老介護の話である以上、この物語のいきつく結末は最初から分かっている。
一見感傷でしか捉えられないような、救いのない話にも思える。
本当にこの映画の話は悲惨でしかないのだろうか?
何十年も人生を共にした夫婦の選択が、本当にそのような悲劇のみで語られようか。

若輩者の自分にもわかるように、ハネケは二つのヒントを言葉にしている。
老いた夫がつらつらと妻に語り出すなんでもない過去の思い出。二つの話はまったく別のものだけど、この映画においては同一の話になっている。

夫が語る一つ目の思い出。幼い頃、初めて一人で映画を見たと時のこと。すごく良い映画で、とても感動したということだけ覚えている。でも、映画の内容は思い出せない。それでも、その時の感動は覚えている。
一つ目のヒントで、人生とは、あいまいな感情の記憶。その積み重ねで出来ているとハネケは言っている。

二つ目の思い出は先に書いた通り、結末を前にして語られる星のはがきの話だ。
何が苦しかったとか、何が悲しかったとか、そんなものは人生においてそれほど重要なことではない。幸せも不幸も、あなたの大切な輝ける記憶の一部であると、そう諭しているように響くのである。

この映画は、愛が現実を救う話なのだ。

そんなもの見たくないという人もいるだろう。そう、見なくてもいい。
この映画は娯楽作品ではない。ハネケが描いてきた芸術作品の、たかが最新作。
ただ、そのフィルムが切り取った夫婦愛の結末には、人生を愛でるヒントが山ほどに詰められているに違いないのだ。
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ロック・オブ・エイジズ(77点)、ステップアップ4(18点)

◆ロック・オブ・エイジズ
★★★★★★★☆☆☆(77点)
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トムがクソおもろいギャグミュージカル

80年代ロックの有名曲を集めたミュージカルの映画化。
超ベタ曲の数々にロック・オブ・エイジズという激ベタなタイトルからわかるとおり、まったくもってコメディである。ミュージカルの方はコメディじゃないと思うが…。(ちなみにオビ湾が10代の時にやってた60,70'sレコード紹介サイトの青臭いタイトルが"ロック・オブ・エイジズ"だったわけで、これだけベタなタイトルは実際比類ない。)

ミュージカル映画ではあるが、ミュージカルとしての魅力はほとんどなく
ロックシーンを題材にしているが、内容は全然ロックじゃなく(ほとんど小馬鹿にしている)
あってないようなストーリーは当然放っとくとしても
とにかくトム・クルーズのロック泥酔野郎がサイコーにおもろい
マグノリアのフランク・T・J・マッキーを超える痺れキャラで、マリン・アッカーマンとゼタジョーンズから舌を引きずり出すシーンは圧巻。
主人公の二人(ブルーアイの女の子は可愛い)の恋愛話がかなりどうでもよく、実際干され気味なのがまた良い。

◆ステップアップ4
★☆☆☆☆☆☆☆☆☆(18点)
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ダンスはすごい。やってることは痛い。

ホテルの厨房で働く主人公はダンスの達人で、仲間とモブチームを結成して街中でゲリラダンス。動画投稿サイトの優勝賞金を狙っている。彼らの目的は自己主張と達成感と、一応お金も。
ある日主人公にバレエダンサーの彼女ができるが、彼の父親がその地域の再開発を計画していることを知って地元密着らしいモブチームがおおもめ。最終的にはモブチームがパーティー会場を襲ったりして抗議する。(そういえば君たち観光業で給料もらってんのにね。)
果たして彼らのモブダンスは再開発から地元を守れるのだろうか……。

・・・・。
ダンスがすごそうだし、セクシーな女の子がいっぱい出てるので気分が上がるかなと思ったんだけど、話が痛過ぎてそれどころじゃなかった。(ダンスはすごいのだけど、演出がのっぺりしているせいか期待していたほど上がらなかったというのもある。)
主人公たちのやってることは中学生もまっつぁおの狭くて自分勝手な自己表現で、普通その手の映画だと思えば気にならないのだけど、なぜかこの映画は見てて辛くなってきた。
美術館ジャックの部分が最後まで引っかかる。君らは自分がやってること芸術だと思ってやってて、再開発の内容も調べずに反抗するほど保守的なのに、よそ様の芸術を犯すのは何でもないのか。
ギャグにもならないティーン映画である。もちょっとなんとか出来んかったのか。
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希望の国(85点)

◆希望の国
★★★★★★★★☆☆(85点)
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落涙 石を穿つ

東日本大震災から数年後の、長島県という架空の地域を舞台にした物語。
牛舎を営んでいた夏八木爺とその家族を中心に、震災直後の被災者の葛藤を描く。

長年住んだ家で、牛舎を営みながら、妻と生活することで”生きる”ことを体現する夏八木爺と、精神病の妻。
牛舎の家畜は殺傷処分命令が下り、家は立ち入り禁止区域に指定され、役所の人間が退去のお願いに来ても、夏八木爺は動かない。人が住めない土地と言われようとも、その場所で妻と共に、これまで通り暮らし死んでいくことが、夏八木爺の”生”だ。

ファザコンの夏八木爺の息子と、子供を宿して放射能と格闘する嫁(ご存じ監督の嫁)。
夏八木爺に追い出され、原発から距離を置く地域に避難した夫婦だが、放射能の影響はどこへ逃げても追ってくる。産まれてくる子を守るため、防護服に身を包んだ生活をする嫁を、世間は嘲笑い、非難する。
迷える夫はイエス夏八木に懺悔する。
「お前の問題だ。お前が決めろ。」
どう生きるかの決断を迫られたときに、あなたが守るべきもののために、あなたがすべきことを、あなたが考えなさいとイエス夏八木は諭す。

お隣さんの一人息子と、両親を津波に流されたその彼女。
二人は毎日のように海岸沿いの街へ行く。彼女の家があり、彼女の両親がいたところだ。
ある日二人は幼い兄弟の幻と出会う。
幼いころに愛聴したビートルズのシングルレコードを探しているという兄弟は言う。
「1歩2歩3歩なんて烏滸がましい。日本人は、1歩1歩1歩と歩んでいくんです。」
1歩、1歩、1歩、二人は手を取り合って生きていこうと約束する。

三世代三様の、葛藤と決意。
暗雲真っ只中の登場人物が背負う未来に、それでも生きていく人間の強さを想う。

人には、人それぞれに希望を見つける自由があるのだ。

原発問題を超えて捉えるべき普遍のテーマである。
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ジャンゴ 繋がれざる者(90点)

ここだけの話ですが、ドンジョンソンが出てくると体温が上がります。

◆ジャンゴ 繋がれざる者
★★★★★★★★★☆(90点)
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ジャンゴ!1万人に1人のニガー

歯科医師から賞金稼ぎにジョブチェンジしたクリストフ・ヴァルツは、新たな3人の賞金首の顔を知っている奴隷ジャンゴ(Jフォックス)を商人から買い取った。奴隷制度を嫌悪しているヴァルツはジャンゴを自由人として開放してパートナーとなり、ドンジョンソン農場で偽名で働いていた3人の賞金首を手際よく仕留める。(ドンジョンソンKKKも隠れた見どころの一つだ!)
ジャンゴに生き別れた妻がいることを知ったヴァルツは、彼女が悪名高い実業家のディカプリオに買われたことを知り、奪還作戦を計画する。
資産家と死闘奴隷商人に扮した2人はまんまとディカプリオのビジネスパートナーとなりかけるが、頭の回るディカプリオの召使い“彷徨えるL・ジャクソン”により本当の目的を知られてしまう…

「イングロリアス・バスターズ」で再び賞レースの世界に存在感を示し始めたタランティーノの最新作は、なんと西部劇。その名もジャンゴ。マカロニ丸出しのチープでイカしたタイトルだ。
ジャンゴへのこだわりはオープニングで「続・荒野の用心棒」のテーマソングが流れるだけでなく、フランコ・ネロがカメオまで出演していたらしい。(気づかなかったが、たぶん中ごろに出てきた壮年の男だと思う)

そんなわけで指向としてはマカロニだと思うのだが、演出も脚本もいつものタランティーノなので、まったくマカロニの枠に収まってないという…。見かけの良い派手な武器(ガトリングガンとかね。)は使わず、キャラクターとジョークでアクションを楽しませちゃうんだから。そんな気の利いたマカロニはない。
重ねて言わずにはいられないのだが、まったくいつものタランティーノであり、最高に楽しい。165分という長尺はさほど苦にならない。

役者陣では助演男優賞Winnerのヴァルツが文句なしのかっこよさ。タランティーノ独特の長台詞との相性はイングロリアス・バスターズでも証明済みだ。
Jフォックス(MJフォックスと間違えられそうだが、僕はあえてそう呼ぶ)は前半こそヴァルツに喰われている印象だが、青いドレスに着替えて以降はめきめきと存在感を増し、最後の大立ち回りは中々良かった。
途中で思いもよらず出てきたドンジョンソンには心拍が早まった。いくつになってもかわいい男である。ディカプリオはいつものディカプリオである。嫌いじゃない。

とにかく楽しい映画だが、タランティーノというのは「人が爽快に死ぬエンターテイメント」であるから、そういう映画に理解が薄い方にはお勧めしない。
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世界にひとつのプレイブック(90点)、ライフ・オブ・パイ(57点)

◆世界にひとつのプレイブック
★★★★★★★★★☆(90点)
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ダンスwithローレンス

同僚に奥さんを寝取られて躁鬱病になってしまったクーパー。妻とは今も愛し合っていると信じ込んでいるが、暴力事件に発展してしまった過去から裁判所に接近禁止命令を受けている。
夫に死なれたショックで職場中でセックスしまくって解雇されたジェニファー。どうして夫は死なねばならなかったのか、受け入れられずに錯乱した過去を持つ。
友人を通じて知り合った二人はお互いの境遇を理解しつつも、罵り合うへんてこな関係。
やがてクーパーは妻へ手紙を渡してもらうことと引き換えに、ジェニファーのダンスパートナーになる。

クーパー一家でちょっとおかしいのは彼だけではない。
暴力行為で球場から出入禁止を受けている父。弟とうまく会話できない兄。人一倍家族を愛している母。
ちょっと変な人が集まったがゆえに、妙にバランスを崩している家族。
そんな家族のバランスを取り戻そうとしたのか、はたまた賭けの口実にしたかっただけなのか、父が起こした行動が順調に回復中だったクーパーにふりかかる。

かくして二人の取引にすぎなかったダンスコンテストの夜は、クーパー一家の逆転をかけた大一番へと姿を変え…
って、これ是非劇場で観てください。お勧めです。


秀逸な脚本に驚く一作。
基本はコメディ調のドタバタ劇でありながら、脇を固める登場人物がしっかりと立ち上がってモノを言い、心地よい奥行きのある映画に仕上がっている。放っときたくなるようなエピソードから、胸が締め付けられるようなエピソードまで、とっちらかった物語が最後のお祭りに集約していく展開は見事だ。

“空気のような良い男”のブラッドリークーパーはそれでもイケメンすぎる感はあったが、オスカーノミネートも納得できる好演。愛すべきアホ父を演じたデニーロ、家族が一番の母を演じたJウィーヴァーもまた良い。ジェニファーローレンスは、もう、なんつうか、しばらくこの顔のオーラだけでやってけそうだ。
さらにもう一回り外側にいる親友、精神科医、父の商売仲間が演出する“実際はスゲーくだらない世間”もこの映画の救いのひとつである。

ささいなズレで見えなくなってしまった未来は、自分一人で取り戻すのは難しい。キラキラはいつだって他人から貰うもの。素晴らしいですね。
二人とも無職ですけど…
(500daysサマーとリトルミスサンシャインを合わせたような話…って言っちゃうと身も蓋もないので小さく追記しておきます。)

◆ライフ・オブ・パイ
★★★★★☆☆☆☆☆(57点)
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それは信仰の母

「世界にひとつのプレイブック」と同様にオスカー作品賞にノミネートしている話題作。
監督はアン・リー。原作は超人気作、らしい。
とにかく比喩・暗喩・寓話に満ち満ちた映画で、まず最初に“そういう”映画であると理解して観ないと言わんとする事を見失いそうになる作品である。そうして導かれて観ていくと、主人公の迷い、発見、帰結は実によくできた話といえる。結末のくだりが最近賞レースでウケの良い映画マンセーを含んでいそうなのも巧みだ。
予告で観るとゴテゴテしているCGだが、スクリーンで見ると得も言われぬ美しさだ。素晴らしく幻想的なアクティヴィティ。3D様様といったところだろう。
ただこれは前述の寓話的意味合いの表現手法として楽しめたものであって、3D映像そのものが映画を救っているわけではない。映画ってのはそういうもんだ。もしこれがただの映像集であるならば、「わかったから後はUSJでやってくれ」である。この作品における3Dは効果的ではあったものの、“3Dは何のために映画に導入されたのか”という小生の邪推は、已然ネガティブな方角を指している。
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