風立ちぬ(97点)
◆風立ちぬ
★★★★★★★★★☆(97点)

懸命に生きるということ
純朴で、真っ直ぐで、力強い。芯が通った美しい映画である。
自分自身で想像し、姿勢をただして作品に向き合うことができるのならば、これ以上なく輝いて見える映画になるだろう。
幼い頃から飛行機の設計者になることを夢見ていた二郎。
やがて大学の工学部に進学し、三菱重工に英才として鳴り物入り入社。
5年後には艦上戦闘機の設計主任を任され、その後には零式艦上戦闘機を作り上げる人物である。
二郎は大学時代、関東大震災の現場で菜穂子という少女に出会う。菜穂子の付添人を介護し、菜穂子を家まで送り届けた二郎は、名前を言うこともなくその場を去ってしまう。
その10年後、新型戦闘機の試験飛行に失敗した二郎は休暇のために軽井沢に避暑に訪れる。そこで菜穂子と再会し、彼女が結核であることを受け入れた上で婚約する。
しかし菜穂子の病状は一向に回復に向かわず、やがて二郎と菜穂子は、二人の生き方についてある決意を固める…。
宮崎駿の「雑想ノート」という本がある。
一般には「飛行艇時代(紅の豚原作)」が掲載されていることで有名だが、そのほとんどは駿監督の趣味である軍事兵器のイラストにうんちくをこれでもかと書き施した代物で、まさに「雑想ノート」と呼ぶに相応しい、男の子による男の子のための本である。
「愚かだとわかりつつも、狂気の情熱みたいなものがどこかで好き。」
子供のための映画の作り手であるということと、それと同時に殺戮を行う兵器のマニアであるということの矛盾について、駿監督はこの本の中でも弁解している。
ただ、このことが矛盾だなんて小生はこれっぽっちも思ったことがない。
ジブリ映画の大きな魅力の1つは、何かに一所懸命に打ち込む主人公の姿である。
未来を担う技術に従事するという夢が、現実には軍事という国家規模の計画の上で成立したという話であり、その事は主人公に複雑な影を落とすかもしれないが、その情熱を否定するものでは全くないからだ。
「自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである」という、
この映画に向けた駿監督の言葉そのままである。

※雑草ノートからはこのオンボロ空母が出てきましたね…
アニメーション表現で息を飲んだのは関東大震災の表現だ。
唸りを挙げて波打つ大地に、飲み込まれるように建物が沈んでいく。
轟く地響きの生物めいた恐ろしさ。心を侵食する恐ろしさだ。
(ユンカースG38が二郎の夢の中で墜落するシーン、及び零戦試作機の始動音にも、呻き声のような効果音が使われていた。)
また、影絵を思わせるドイツの一幕も遊びが感じられて楽しかった。

短い人生でも、それを幸せと感じる心の自由
第二次大戦前夜、日本の航空工学が飛躍する瞬間に立ち会い、その夢に全身全霊を持って従事した二郎。そしてまた、皮肉にもその瞬間だけに残された命をまっとうした菜穂子。
決して時間に恵まれた夫婦ではないが、その時を大切な人と生きたいように生きる姿に感動する。少しでも長く生きる、それよりもっと大切なことがある。
それは、「懸命に生きる」ということではないだろうか。
アニメであり、映画であることの習熟。
「風立ちぬ」はジブリ映画の中でも秀でて作家性が高い映画である。
ラピュタやナウシカようなエンターテイメントは楽しいが、この映画はそれ以上に「作り手が今の時代に伝えたいこと」に重きを置いた映画である。
ましてや、テレビの延長を見たい人に媚びるような映画では、全くない。
自分自身で想像して、考えてほしい映画だ。
最後に"予備知識が全くない"という人にお勧めするのは、本作の主題歌である荒井由実の「ひこうき雲」を聴き、その歌詞に目を通し、その意味を考えてみること。
きっと、「風立ちぬ」を感じる助けになると思う。
★★★★★★★★★☆(97点)

懸命に生きるということ
純朴で、真っ直ぐで、力強い。芯が通った美しい映画である。
自分自身で想像し、姿勢をただして作品に向き合うことができるのならば、これ以上なく輝いて見える映画になるだろう。
幼い頃から飛行機の設計者になることを夢見ていた二郎。
やがて大学の工学部に進学し、三菱重工に英才として鳴り物入り入社。
5年後には艦上戦闘機の設計主任を任され、その後には零式艦上戦闘機を作り上げる人物である。
二郎は大学時代、関東大震災の現場で菜穂子という少女に出会う。菜穂子の付添人を介護し、菜穂子を家まで送り届けた二郎は、名前を言うこともなくその場を去ってしまう。
その10年後、新型戦闘機の試験飛行に失敗した二郎は休暇のために軽井沢に避暑に訪れる。そこで菜穂子と再会し、彼女が結核であることを受け入れた上で婚約する。
しかし菜穂子の病状は一向に回復に向かわず、やがて二郎と菜穂子は、二人の生き方についてある決意を固める…。
宮崎駿の「雑想ノート」という本がある。
一般には「飛行艇時代(紅の豚原作)」が掲載されていることで有名だが、そのほとんどは駿監督の趣味である軍事兵器のイラストにうんちくをこれでもかと書き施した代物で、まさに「雑想ノート」と呼ぶに相応しい、男の子による男の子のための本である。
「愚かだとわかりつつも、狂気の情熱みたいなものがどこかで好き。」
子供のための映画の作り手であるということと、それと同時に殺戮を行う兵器のマニアであるということの矛盾について、駿監督はこの本の中でも弁解している。
ただ、このことが矛盾だなんて小生はこれっぽっちも思ったことがない。
ジブリ映画の大きな魅力の1つは、何かに一所懸命に打ち込む主人公の姿である。
未来を担う技術に従事するという夢が、現実には軍事という国家規模の計画の上で成立したという話であり、その事は主人公に複雑な影を落とすかもしれないが、その情熱を否定するものでは全くないからだ。
「自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである」という、
この映画に向けた駿監督の言葉そのままである。

※雑草ノートからはこのオンボロ空母が出てきましたね…
アニメーション表現で息を飲んだのは関東大震災の表現だ。
唸りを挙げて波打つ大地に、飲み込まれるように建物が沈んでいく。
轟く地響きの生物めいた恐ろしさ。心を侵食する恐ろしさだ。
(ユンカースG38が二郎の夢の中で墜落するシーン、及び零戦試作機の始動音にも、呻き声のような効果音が使われていた。)
また、影絵を思わせるドイツの一幕も遊びが感じられて楽しかった。

短い人生でも、それを幸せと感じる心の自由
第二次大戦前夜、日本の航空工学が飛躍する瞬間に立ち会い、その夢に全身全霊を持って従事した二郎。そしてまた、皮肉にもその瞬間だけに残された命をまっとうした菜穂子。
決して時間に恵まれた夫婦ではないが、その時を大切な人と生きたいように生きる姿に感動する。少しでも長く生きる、それよりもっと大切なことがある。
それは、「懸命に生きる」ということではないだろうか。
アニメであり、映画であることの習熟。
「風立ちぬ」はジブリ映画の中でも秀でて作家性が高い映画である。
ラピュタやナウシカようなエンターテイメントは楽しいが、この映画はそれ以上に「作り手が今の時代に伝えたいこと」に重きを置いた映画である。
ましてや、テレビの延長を見たい人に媚びるような映画では、全くない。
自分自身で想像して、考えてほしい映画だ。
最後に"予備知識が全くない"という人にお勧めするのは、本作の主題歌である荒井由実の「ひこうき雲」を聴き、その歌詞に目を通し、その意味を考えてみること。
きっと、「風立ちぬ」を感じる助けになると思う。
コメント
2013/08/06(火) 06:35:39 | URL | 紺碧 #8IgtKjlw[ 編集]
紺碧さん
こんばんわ。
いやぁ、あの日はこの映画観てそのまま実家にいかなければならなかったので、どうしようもなかったんですよ。
しかしヒットしてるみたいですね「風立ちぬ」。こんな純文学みたいな映画がまともに流行るなんてすばらしいですね。
駿ちゃんも好きなものしか書いてない感じで、もう、なんか、ずば抜けてると思いますコレ。
こんばんわ。
いやぁ、あの日はこの映画観てそのまま実家にいかなければならなかったので、どうしようもなかったんですよ。
しかしヒットしてるみたいですね「風立ちぬ」。こんな純文学みたいな映画がまともに流行るなんてすばらしいですね。
駿ちゃんも好きなものしか書いてない感じで、もう、なんか、ずば抜けてると思いますコレ。
2013/08/06(火) 20:16:43 | URL | オビ湾 #-[ 編集]
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…は、おいといて。
オビ湾にいちゃんに振られたので、見に行ってきました、『風立ちぬ』。
にいちゃんのレビュー、激しく同感です。
コクリコ坂に続いて、見る人を選ぶ映画かもしれませんね。
子どもたちには、今回も難解だったようで…でも、おもしろかったそうです。
「あの時代」の予備知識は、ある程度必要だと思います。
「なんでドイツ人と仲良くしちゃだめなの?」と子どもたちに聞かれました。
…その疑問を持つことのできる平和、大事にしたいと思いました。
それにしても、ユーミンの主題歌…この映画のためにかいたとしか思えない…